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一呼吸をおいて、
「なら、世界に従うしかないでしょう?教科書を持っていかないで怒られるのは私達。もし今日が十四日だなんて強硬に主張しようものなら、私達は頭が狂ったか、どうかしたかと思われるわよ」
家族が私をそう見たみたいに、と最後に付け加える。
すると、
「……お前、本っ当に頭の回転、速いな」
彼は亜季をぼけっと見つめている。どうやらあのパニック下ではそこまで考えが回らなかったのだろう。ほんの少し、溜飲が下がる。やはり淳司に貸しを作ったままというのは嫌なものだから。
「悪い、俺、家に教科書取りに戻るよ」
そう言って駆け出した淳司のあとを、
「待ちなさいよ!私も一緒に行くわよ!」
亜季は追う。
この二月十三日の世界のもとで、今日が二月十四日だと思う彼女が、同じ考えを持つ淳司に取り残されるのはどうしてか怖かった。淳司の言葉ではないが、確かに自分の家族も、別人のように亜季には思えてしまったから。
加えて、淳司が側にいると亜季は冷静でいられる。淳司が冷静さを保てないから、自分が冷静にならなければ、と考えるから。
それは、混乱下にあった亜季にとって、良薬のようなものだ。
「まあ、でも、考えようによっては、こういうのも悪くはないだろう」
淳司は軽い口調で追いかけてくる亜季に向かって言う。
不機嫌そうに眉を顰めて亜季は問う。
「どういう意味よ?」
「いや。数学のテストとかはどういう問題が出るかもわかるし、先がわかるってのは何かと便利だろう?」
そう。
自分は、真島淳司はこういう非日常を望んでいたのだ。
怠惰な日常ではなく。
現実には起こり得ない非日常。
スリルに満ちた緊迫感。
自分が望んでいた世界が、目の前に広がっているような錯覚を淳司は感じていた。