トロワゾ1
結城総司は何とか遅刻せずに校内に入ることが出来た。
しかし、彼の心中は穏やかではない。
なぜなら……
(……今日は……本当に二月十三日なのか?)
わからない。
自分―結城総司―はおかしくなってしまったのか?
瞬間的な記憶喪失……違う。十三日の記憶がある。これは、記憶喪失とは言わない。勘違いと言うには昨日の生活があまりにも生々しく思い出せる。
ジャックのように日本語の意味を取り違える程、自分は混乱しているのか。
執事の爺やにも訝しげな眼を向けられたし、お堅い両親にいたってはどうしたのかとしつこく追求された。
(……新聞を読みながら尋ねたのが、失敗だったかもしれないな……)
結局、自分が勘違いしていた、ということにした強引に会話を打ち切ってきたのだが。
「おはよ、総司君」
総司が知っている声だが、いつもと違って元気が無い。
「……おはよ、翔子ちゃん」
同様に、総司の声にも覇気が無い。
「……ひどい顔だね」
「……翔子ちゃんの方こそ」
翔子の顔は風邪でも引いたのかと思うほど青かった。にも関わらず、総司が彼女を保健室に連れて行こうとしたり、体調について聞こうとしなかったのは、それ以上に総司自身にも余裕がなかったからだ。